吉目木 晴彦の「一枚の写真から」

第一回「懐かしい風景」

渋谷駅は一日の乗降客数が200万人を超える、首都圏有数のターミナル駅です。 Q-FRONTや109を中心に、新しいモードの発信地として、今、東京で一番人気のある街の一つです。

それが、西に向かって電車に30分も乗ると、多摩川を超え、東京都と神奈川県が境を接する郊外地に出ます。 まだ畑や雑木林が残り、住宅地には、そこここに空き地が点在しています 。20年くらい前までは空き地に子供達が集まり、夕方まで遊んでいたものですが、そんな風景も最近はあまり見られません。

懐かしい風景

空き地を走り回る子供の姿が少なくなるにつれ、見かける機会が減ったものに、 子供のたまり場になっている小学校近くの文房具屋さんがあります。

匂い付きの消しゴムや、隠しひきだしなどいろいろな仕掛けを施した筆箱、 またちょっとした玩具類も売っていました。それより以前には駄菓子屋で売っていたような玩具ばかりで、紐を編む「リリアン」やコンクリートに落書きをする「蝋石」、それに「紙石けん」や「メンコ」も人気がありました。

「メンコ」の絵はどんな人が描いていたのでしょう。

漫画の人気キャラクターや野球選手の絵が多かったようです。今では玩具博物館あたりでしか見かけません。独特の画風で、あまり実物に似てはいないのですが、初めて昔の「メンコ」を目にしたという人にとっても、絵柄といい、印刷具合といい、何とも言えない懐かしさがあるようです。

初めて見るのに懐かしい・・・・自分たちが生まれる前、両親が若い頃に撮った写真、祖父母がアルバムに貼った写真を見ている時にも、ふと感じることがあります。そこには話にだけ聞いていた時代が、広がっています。写真の中の風景を通じて、親しい人の思い出そのものに触れている感じがします。

きのう撮った写真も、10年後、20年後には、かけがえのない一つの時代を伝える宝物になっているでしょう。写真プリントは長い間、いつでも見ることの出来る記憶そのものです。わずか数年前にワープロ専用機で作った文書フロッピーが、今では読み出せなくなってしまったように、デジタルカメラで撮った写真も CD-ROMやハードディスクに置いておくだけでは、10年後にはもう見られなくなっているかも知れませんね。