吉目木 晴彦の「一枚の写真から」
第二回「美しい果実」
「ワイオミングの兄弟」「アラバマ物語」「懐かしきケンタッキーの我が家」。皆さんも一度くらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。順番にテレビドラマ、小説、歌のタイトルです。どれも州の名前が付いていますが、実際にどこにあるのか、地図で示せる人は案外、少ないと思います。
10年ほど前に「マディソン郡の橋」という小説がベストセラーになり、映画もヒットして「マディソン郡」は一躍有名になりました。しかし、それがアイオワ州にあることまで記憶している人は、あまりいないでしょう。 。
アイオワ州はアメリカ合衆国本土のほぼ中央近く、延々とトウモロコシ畑が続く穀倉地帯です。人口は300万人ほどで、都市部から離れると、隣家は地平線の向こう、という農場も珍しくありません。夜になると、澄み切った空には雄大な銀河が広がり、目を凝らせば、星々を背景に人工衛星が移動していく様子も見られます。
1872年に、岩倉具視の率いる訪米視察団が大陸横断鉄道でアイオワ州に足を踏み入れました。その記録である「米欧回覧実記」には、「田野は牧地多く、果林もあり」と紹介されています。
岩倉具視がどんな果林を見たのか、残念ながら記されていませんが、アイオワではブルーベリー、ラズベリー、クランベリーなど、色鮮やかな果物が採れます。香りがよく、甘みも少ないので菓子の材料に使われ、日本でも一般化しました。土地の人達は、採れたてのラズベリーをボウルに盛り、牛乳をかけて食べたりもします。
かつての州都アイオワ・シティー(今の州都はデモイン)には、毎水曜日に農家の朝市が立ちます。ブルーベリーやラズベリーは朝市の人気商品です。農家の子供達は、売り子をして働きます。見渡す限りの畑と降るような星の下で暮らしているせいか、都会の子供とは違い、表情が穏やかで、視線に落ち着きが感じられます。生のラズベリーは繊細な果実で、少しでも乱暴に扱うとすぐにキズが付き、そこから傷んで行きます。早朝に自分で摘んだ実を、そっと袋に移して、手渡してくれます。
「パイ生地のケーキにしてみたら?」はにかみながら、勧めます。なるほど、ブルーベリーやラズベリーほど、トッピングして色が映える果実はないかも知れません。
