吉目木 晴彦の「一枚の写真から」
第三回「雪の降る頃」
今年の正月は、天候に恵まれた地域も多かったようです。
晴れた冬の空は高く透明で、午後になると陽射しが眩しく感じられます。
ちゃんとデータを調べたわけではありませんが、昔に比べ、年ごとに正月が暖かくなっている気がします。耳がちぎれるような空気の冷たさとか、肌に粉を吹くような乾いた寒さにさらされる日が、少なくなっているように感じます。
もっともそれは、自動車や建物の排熱量が多い人口密集地に顕著な現象かも知れません。
数年前、山梨県の清里高原で過ごした時は、夜が明けると、数十センチもある見事な氷柱(つらら)が軒下に連なっていました。
朝の光を反射する氷柱の先端は刃のように鋭く、その下を通るのは怖い気がしたものです。周囲は一面、雪で覆われ、風が吹くと白い泡がほのかに雪原の上を流れて行きます。白樺林の脇の緩やかな斜面で、子供がソリを引いて遊んでいました。

空き地を走り回る子供の姿が少なくなるにつれ、見かける機会が減ったものに、子供のたまり場になっている小学校近くの文房具屋さんがあります
子供達は雪が好きです。今年の冬も、雪が降るのを待ち遠しく思っているのではないでしょうか。
19世紀のオーストリアの画家アーダルベルト・シュティフターが書いた小説に「水晶」(岩波文庫)という短編があります。
山深い村に住むコンラートとザンナという幼い兄妹が、祖父母の家から帰る途中、雪山で迷い、洞窟で一夜を明かします。
危険な状態に陥るのですが、兄を信じ切って疑わない妹は、兄に何を話しかけられても「そうよ、コンラート」とだけ言って、あとをついて行きます。 冬山と夜空の描写が映える静かな物語で、地味ですが長く読まれ続けています。
私の家のアルバムにも、子供の頃の、雪だるまを作って遊んでいる白黒写真が残っています。
昭和30年代の中頃のもので、雪だるまの目鼻はタドンや炭を並べたものです。
当時は何の変哲もないことでしたが、今となってはタドンも炭も家の中で見ることは少なく、「あの頃は、こういう生活だったんだ」と感慨深いものがあります。
場所は、福岡県の筑後市です。
その地方としては、あるいは記録的な積雪だったのかも知れません。
