吉目木 晴彦の「一枚の写真から」

第八回「単彩画の時代」

文壇で私と同世代の作家は、奥泉光、笙野頼子、室井光弘、大岡玲、中沢けい、川西蘭、島田雅彦、といった人達です。

1950年代の後半から1960年頃に生まれ、ほとんどが1980年代に登場しています。と言って、世代論ができるような共通性は乏しく、各人の個性や作風に至っては、バラバラもいいところです。
「春一番が吹くまで」で登場しキャンディーズ世代の代表作家と呼ばれた川西蘭が、今は出家した僧侶である、なんてご存知でしたか?

「坊主まる儲けって言うからなぁ」彼が剃髪した時、島田雅彦あたりはさんざんからかっていました。当人に言わせると「坊主まる儲けなんてことは決してない」そうですけれど。

前に名を挙げた作家達の中で飛び抜けて早くデビューしたのが中沢けい。
彼女が17歳の時でした。

最近10代の芥川賞受賞者が現れて騒がれましたが、1978年に彼女が「海を感じる時」で群像新人文学賞を受賞した時の衝撃は、その比ではありませんでした。佐多稲子など戦前から活動している大家達にまで認められた細面の少女の出現は、村上龍以来の大きな話題でした。
もっとも、早く世に出た苦労はあったようで「私が選考員をしている新人賞の受賞者が、私より年輩という状態が続いたんだから」とこぼしていました。

その中沢さんは、実は名うての機械音痴です。今はほとんどの作家がパソコンで原稿を書きます。彼女も数年前にパソコンを導入したのですが、原稿がプリンターで印刷できなくなり、出版社にSOSの電話をしたところ、駆けつけた編集者がまた輪をかけて機械が苦手で、結局、彼女のパソコン画面上に表示された原稿を、全ページ写真に撮り、現像して入稿したそうです。
しかし。
世の中はわからないもので、その彼女が仲間と共にアイデアを出し、企画した原稿執筆専用のワープロソフト「原稿プロセッサ」が、何とこの夏、情報処理推進機構の「ソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2004」を受賞しました。
むぅ。実に不思議な才能と言うほかありませんね。

単彩画の時代
yukkeyさん(東京都)の作品

作家達の幼少時の写真がたまに雑誌などに載ります。私達の世代では、ほとんどがモノクロ写真です。昭和で言うと30年代、カラー写真は高額で、フィルム工場に送って現像していたのだと思います。家庭のアルバムにカラー写真が混ざり始めるのは東京オリンピック(1964年)以降からではないでしょうか。

同世代と言いながら、実は子供時代というのはほんの2〜3年、生年がずれているだけで、憶えている事柄に違いがあるものです。
でも、自分自身の中でも当時の風景の記憶にモノクロームが多い、というのは共通した体験のようです。
もちろん当時の町並みも生活も、様々な色彩に溢れていたはずなのですが、思い出のあちこちにモノクロのシーンが挿入されています。
それはアルバムの写真を見て、再構成されたものなのでしょうか。あるいは実際に、今に比べると地味な色合いの時代だったのでしょうか。

今回、応募されたyukkeyさんの写真は、このコラムでは初めてのモノクロ写真です。
光が柔らかく写し出され、全体がもの静かな雰囲気に包まれていますね。まるで「あの時代」のような絵になっています。
子供は、意外なことを長く記憶しているものです。
親が「忘れてしまっただろう」と思うようなこと、親の方が憶えていないような事柄が、記憶に残っていたりします。それも、びっくりするほど幼い頃のことを。お父さんに手を引かれた女の子は、この写真を撮った時を、記憶し続けるでしょうか。その記憶は色に満ちたものでしょうか、あるいは写真と同じようにモノクロなのでしょうか。
10年後に、聞いてみたいですね。